赤ちゃんの首につける浮き輪についての危険性について注意喚起する投稿に対して、「極端な例ばかりでうんざり」だという同社公式アカウントのツイートがあったためです。 スイマーバの製品に限った話ではありませんが、首用浮き輪の危険性を甘く見過ぎていないでしょうか? まるで子供に通常の愛情があれば、ひとときも目を離さないことができるはずで、事故の予防が可能なように受け取れます。 しかし、子供の不慮の事故は保護者が注意していても目の前で起こることがあるのです。まして、一瞬でも目を離さないということは不可能です。 不可能なことを求めておいて、事故が起こったら使い方が悪いというのは会社として問題があるのではないでしょうか。

小児科医が一斉に批判 学会調査では首浮き輪で事故多発

9月24日に、多数の小児科医が危機感を持ち一斉に声を上げました。スイマーバジャパン社の認識が、実際とは違っているからです。 例えば、日本小児科学会指導医の坂本昌彦先生は、首用浮き輪の危険性についてYahoo!個人で記事を書いています。 それによると2021年の日本小児科学会の実態調査で、回答者5503人中17人が浴室で浮き輪を使用して溺れかけ、そのうちの9人が首浮き輪を使用していました。2020年には首用の浮き輪で死亡事故も報告されています 。

「寝つき改善」「便秘に効く」と書く助産師 根拠はありますか?

首につける浮き輪は、子供が泳いで遊ぶのを補助する目的で作られたものです。日本では、ランキング記事ができるほどたくさんの種類が売られています 。ちなみにこのランキングにはスイマーバも入っています。 助産師が書いたこのランキング記事では、 「羊水にいたときのことを忘れないうちに行うことで、水への抵抗感が少なくなります」 「夜はぐっすり寝てくれる」 と紹介されていますが、本当でしょうか? 羊水のことを覚えているか忘れてしまったかは、確かめられません。もしかしたら生まれた瞬間に、赤ちゃんは羊水の中にいたことなどもう覚えていないかもしれません。 また一般的に、日中運動をしたほうが寝付きが良くなる可能性がありますが、寝かせやすくなる確証はありません。 Instagramをみると「スイマーバを使うと子供の便秘に効くといわれた」という投稿がありましたが、便秘が良くなる合理的な理由は考えられません。

首浮き輪は死亡などの重大事故が相次ぎ、消費者庁も注意喚起

この首用の浮き輪は、死亡を含む重大な事故が相次いでおり、日本では2012年と2014年に消費者庁から注意喚起が出ています 。 スイマーバだけでなく同様の首につける浮き輪は中国でも死亡事故があり、オーストラリアではneck floatは発売禁止、2022年には、やはりアメリカのFDA(食品医薬品局)も二分脊椎や発達の遅れ、脳性麻痺、ダウン症などのある子どもには使用しないようにといっています 。 アメリカ小児科学会は、救命胴衣の代わりにはならないことから、乳幼児に浮き輪などを使用しないようにとしています。また、水泳のレッスンは1歳以上に効果があり、1歳未満の乳児向け水泳プログラムが有益であるエビデンスはないとも言っています 。 つまり、日本で事故の報告をした医師は、当然自分が目立ちたいからといった卑近な理由からではなく、子供の命や安全性を考えて行ったのです。同社だけを目の敵にしているのではなく、同様の製品に対して注意喚起をしているのです。 前述のように、同社の製品を含む首につける浮き輪は、入浴の手助けにはなりません。しかし、同社が #ワンオペ育児 とハッシュタグを付けて宣伝することは、大きな矛盾です。 発達に遅れがあったり身体に不自由があったりする子どもには使うべきではありませんが、同社はむしろ勧めています。

人はミスをするし、子どもは予想外の動きをする 医師たちの注意喚起を活かして

赤ちゃんの首用浮き輪は、大手玩具量販店では「バストイ」のコーナーで売られているそうですが、並べ方を工夫してほしいです。他の浮き輪同様、プールなどで遊ぶ際の玩具であって、入浴を助けるものだと誤解を生まないようにしなくてはいけません。 子どもの死亡原因で不慮の事故は常に上位です。でも、事故の少なくない例は、知ることで防ぐことができます。だからこそ、私達小児科医は注意喚起をします。 人は意図せず誤った行動をしてしまうものだし、育児で疲れた保護者はなおのこと不注意が増えるでしょう。それに子どもはときに大人の想定外の行動をするものです。 注意喚起は、利用者にとってはもちろん製造・販売会社にとってもむしろ価値のあるもので、不満や非難の対象にされるいわれはありません。製品自体を誤操作しにくくし、少しの誤りくらいでは危険な事故につながらない設計が大事です。 販売会社による今回の医師批判は大変残念でしたが、この機会にぜひ、多くの人たちに子どもの安全について知り、考えてほしいです。

謝罪文を27日に掲載するも、安全性を強調

スイマーバジャパンは9月27日、公式ウェブサイトに「スイマーバ公式Twitterにおける不適切な内容・表現のお詫びと入浴時の溺水トラブルの実態について」とする文章を掲載しています。 「不適切な内容・表現が含まれた投稿により、日頃よりご愛顧いただいているユーザー様並びに首浮き輪に関するコメントをお寄せ下さった医療関係者の方々、投稿内容をご覧いただいた多くの方に不快な思いをさせてしまったことを深くお詫び申し上げます」と謝罪しました。 しかし、「不快な思いをさせてしまったこと」が問題の本質ではなく、同社が何を反省したのかがこの謝罪文では伝わりません。 また、同時に日本小児科学会が2021年に報告した「未就学児の家庭内入浴時の溺水トラブルに関するアンケート調査結果」を引用し、「浮き輪不使用時に溺れを経験する確率は26.9%と首浮き輪使用中の0.8%に対し非常に高い結果となった」と、首浮き輪の安全性を強調しています。 これは同社が誤解しているようで、首浮き輪を使ったら溺れにくいのではありません。性質の違うものを並べてしまっているのです。安全性に問題はないといいたいなら、同じ月齢の子が同じ期間、「首浮き輪あり」「首浮き輪なし」で溺水の数を比較しないといけません。 「今後も首浮き輪使用中の溺れ事故0を目指し引き続き注意喚起をおこなっていくと同時に、お風呂での溺れ事故が減るように関係各所と連携し、注意喚起をおこなっていきたいと思います」という言葉には期待するところですが、注意喚起や再発防止は何が問題か正確に把握していなければできないはずです。 まずは何を批判されているのか誠実に耳を傾け、小児科医を攻撃するのをやめるべきです。玩具の製造会社と私達小児科医は、ともに子どもを守り幸せにするためにいるのですから。 ※BuzzFeed Japan Medical編集部を通じて、スイマーバジャパン、有限会社FUNAZAWAの代表取締役、舩澤泰隆氏に質問状を送っているが、現時点で回答はない。回答があり次第、追記する。

【森戸やすみ(もりと・やすみ)】 小児科専門医

1971年、東京生まれ。1996年、私立大学医学部卒。一般小児科、NICU(新生児集中治療室)などを経て、どうかん山こどもクリニックを開業。ツイッターはこちら。BuzzFeedへの寄稿はこちらで読める。主な著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』(同)、共著に『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』(同)など。

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